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研究内容

アーキアが有する真核様クロマチンの組織化原理の解明

 真核生物の最も際立った特徴の一つは、クロマチンを基盤としたゲノム三次元構造を形成する点にあります。クロマチンは、ヒストンタンパク質にDNAが巻き付いたヌクレオソーム構造を主成分とする繊維状の構造体であり、この構造はさらにSMC(Structural Maintenance of Chromosomes)複合体をはじめとする種々のクロマチン因子によってTAD(Topologically Associating Domain)やDNAループといったより高次の構造を形成します。真核生物では、これらの構造が様々なタンパク質によって制御されることで、転写や複製、修復といったゲノム機能が巧妙にコントロールされています。

 我々は、真核クロマチンがどのように誕生したのかを明らかにするためにアーキアと呼ばれる微生物を研究しています。アーキアは真核生物の起源になった原核生物だと考えられており、またヒストンやSMC複合体といった真核クロマチン因子のホモログを有しています。このことから、アーキアのゲノムは真核生物の祖先が有していたクロマチンに近い複合体構造を形成すると考えられます。我々は、このような「アーキアクロマチン」の構造的・機能的性質を分子遺伝学やNGS(Next Generation Sequencing)解析を駆使して解明することで、真核クロマチンの起源に迫ることを目指しています。

 これまで我々は、NGSを用いたゲノム三次元構造解析法であるHi-C/3C-seqを超好熱性アーキアに対して適用可能にすることで、アーキアゲノムの構造と機能を研究してきました(Takemata et al., Cell 2019; Takemata & Bell, Mol. Cell 2021)。現在は、アーキアのSMC複合体が形成するTAD様ドメイン構造(Yamaura et al., Nat. Commun. 2025)の形成メカニズムと機能について特にフォーカスして研究を行っています。また、最近ではアーキアヒストンに関する研究も行っています。アーキアでは、真核生物のヌクレオソームに近いDNA-ヒストン構造が形成されることが知られていますが、その生理的機能については未だ多くの謎が残されています。また、アーキアのヒストンには真核ヒストンの機能に重要な「テイル」という天然変性領域がみられず、このような進化的差異がいつ、どのように生じたのかも不明です。我々は、アーキアヒストンがゲノムの構造・機能的制御に果たす役割を解明するとともに、アーキアヒストンに真核ヒストンのテイルを融合させる実験進化的アプローチを通じてヒストン進化の謎に迫ることを目指しています。


当研究室の主な研究材料である超好熱性アーキア
Thermococcus kodakarensis
NGSによるゲノム三次元構造の解析

超好熱性アーキアが高温下でクロマチンの機能性を維持する仕組みの解明

 80˚C以上の至適生育温度をもつ菌は超好熱菌と呼ばれ、その多くがアーキアドメインに属しています。生命が存在できるとは到底考えられないような高温環境で生育する超好熱菌は多くの研究者の興味を引きつけてきましたが、その性質は未だ十分には解明されていません。特に、DNAの変性や損傷を容易に引き起こす高温下で超好熱菌がクロマチンの構造的・機能的恒常性をどう維持しているのかは長年の謎となっています。この解明を目指すべく、我々は超好熱菌がもつユニークなDNAトポイソメラーゼであるリバースジャイレースに着目した研究を行なっています。

アーキアゲノムの応用に向けた取り組み

 アーキアは高温だけでなく様々な極限環境に生育しています。また、他のドメインではみられないようなユニークな代謝経路も数多く有しています。これらの形質は、将来のバイオテクノロジーに繋がるようなポテンシャルを秘めています。我々は、アーキアゲノムの動作原理を理解し、それを操作・改変することでアーキアがもつ極限環境耐性や独自の代謝経路を強化・応用することを目指しています。

立命館大学 生命科学部 生物工学科

微生物ゲノム動態研究室

〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1 エクセル2 2階

Microbial Genome Dynamics Laboratory

Department of Biotechnology
College of Life Sciences, Ritsumeikan University

1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu, Shiga 525-8577, Japan

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